9月10日 日曜日 晴れ
 浮間に出動。
 暑い。
 

9月11日 月曜日 晴れ
 原稿執筆に専念。
 月曜日は電話が多い。
 困ったことだ。たぶん、かけてくる側にしてみれば土日の電話を遠慮しているってことなのだろうからして、悪気はないのだろう。それはわかっている。でもやっぱり午前中に7本も電話がかかってきたりするとちょっとナーバスになる。南の島に逃げ出したくなる。
「オレを殺す気か?」
 と受話器に向かって金切り声をあげたい気分だ。
 おかしいだろうか?
 一日当たりの電話許容件数が十本に満たないというのは、こりゃ神経症なんだろうか?
 
 電話は暴力だと思う。だって、個人の個室にいきなりノックもせずに乱入してくるわけだから。
 このマシンは、21世紀には消滅しているべきだ。
 でなくても、電話のコミュニケーションについては厳格なルールが作られるべきだ。
 たとえば昼寝中の電話とかは、住居不法侵入に準ずる犯罪として取り締まられなければおかしい。

 せめて電話をする側が、事前にメールでアポを取ってくれるといいのだが。
 うむ。
 本来なら、いきなり電話をする前に
「電話してもいいですか?」
 というメールをよこすべきなのだ。
 で、こちらがその接続依頼メールを読んだ上で
「ええ、○曜日の○時に○分間お話しましょう。ただし○○の話題にはお答えしません」
 みたいな会話許諾の返事を出して、そこではじめて回線がつながるべきなのだ。

 って、まあ、そうもいかないか。大物俳優や政治家じゃないんだし。

 現実的には、ごく近しい数人にしか教えないプライベートの電話番号と、平日の9時5時しかつながらないパブリックな電話番号を別々に持つべきなのだろう。
 いや、より詳細に考えるなら以下の3回線が良いかもしれぬ。
  1. 仕事用の電話:勤務時間中だけつながる。あるいは、あらかじめ世間に向かって公的にアナウンスしてあるスケジュールにそって、自動的に回線のオン・オフがおこなわれる。まあ、事実上は、家電メーカーの苦情受けつけ電話みたいな運営形態ですね。
  2. 家族用の共同電話:家族の合意の上で回線をオンにした時にだけ受け状態になる。こちらからかける機能は無い。
  3. 個人用電話:接続する時間帯に制限は無いが、その代わり、あらかじめ登録した特定の電話番号としかつながらない。
 うーん。オレとしては、3の電話は要らないな。
 友達はいないのかって?
 電話をかけてくるような無礼なやつは友達じゃないからね。
 だってそうだろ? 本当の友達というのは、電話で話なんかしなくても心が通じ合っているような人間のことを言うんだぜ。
 そんな人間がいるのかって?
 いるよ。
 たとえばペトロビッチとか。
 そう。心が通じ合っていれば、言葉が通じる必要はない。
 
   いずれにしても、他人の寝こみを襲ったり、サッカー観戦を妨害したりする権利は誰にもないはずだ。
 その点、メールは素晴らしい。
 こっちの都合で読める。
 いざとなったら無視できる。
 コミュニケーションの接続権は、話しかける側の都合ではなく、話しかけられる側の都合で決められるべきだ。
 つまり、取材者側の権利よりも、被取材者側の権利が優先されるべきだってことだ。
 オレに連絡をつけたいなら事前にメールをよこせ。
 うむ。
 いいぞ。
 メールチェックは月に一度。
 メールの上では大げさに懐かしがる。
「近いうちにお会いしたいですね」
 とかお互い言い合いながらも、忙しさにかまけてこの20年会ってなかったりする。
 デジタル隠遁者のバーチャル交際。
 理想だな。


9月12日 火曜日 雨のち曇り
 取材。
 豪雨の中、午前10時過ぎに自宅を出る。駅に着いた時には完全にずぶ濡れだった。
 取材先は京王線の南大沢という駅の近所。
 もっと遠いと思っていたのだが、新宿から特急に乗って行くと四十分ほどで着いてしまった。
 南大沢の駅前は、線路をまたぐ巨大な橋になっていて、そこにいきなりデカいショッピングモールが広がっている。
 全体のたたずまいはサンノゼ郊外で見たモールにそっくり。遊園地とスペイン風を模した低層のショップ。教会の尖塔の偽物。レストランとデカい駐車場。なるほど。
 昼食を食べる場所を探してちょっと歩くうちに、アウトレットショップ(ブランド直営みたいだった)が集中している地域にはいりこんでいた。なかなかの規模だ。しかもどの店も繁盛している。
 通りがかりに眺めた範囲で言えば、なんだかおそろしく安い値段がついていた。
 きっと、今後、町の洋品屋や都心型のデパートは、このテの郊外型のモールに押されて徐々に滅んで行くのだろうと思う。単独の専門店も、超高級店と超安売り店以外は生き残れないに違いない。なんだか不愉快だが。
 京王多摩センターからこのあたりにかけては、おそらく計画的なニュータウン開発の絵の中にある。バブルの崩壊でダメージを受けてはいるはずだが、千葉ニュータウンほどひどいことにはなっていない。今後、景気が順調に回復すれば、あるいはこっちの方が都心より住みやすくなるかもしれない。
 オレは住みたくないけど。


9月13日 水曜日 晴れ
 午後になって、いきなり歯が痛み出す。
 予約は18日なのだが、たまらず歯医者の門を叩く。
「あーあ、右上の虫歯が神経に触ってるみたいですね」
 非常に痛いんです。
「麻酔をしてからちょっと削って神経を取ります。痛かったら言ってください。……どうですか」
 痛いです。
「うーん、じゃあもう一本裏から麻酔を打ちましょう」
 い、痛いです。
「おかしいなあ、異常に麻酔が効きにくい体質みたいですねえ。とにかくもう一本行ってみましょう」
 や、やっぱり痛いです。
「うーん。……とりあえず神経を殺す薬を入れておいて、今日のところは治療は延期ですね」
 ……はい。
「麻酔が切れるのも早いみたいですね」
 はい。
「痛み止めを出しておきますが、定量以上飲まないようにしてください」
 
 つまりオレが「痛がり」だとそう言いたかったのか?
 なあ、先生、はっきり言ってくれよ。
 オレは、いくじなしなのか? こらえ性がないのか?
 そういうことなのか?

 でも、先生、ご指摘はありがたいけど。
 いまさら直せないぜ。
 病気じゃなくて性格なんだから。
 


9月14日 木曜日 晴れ
ball20.gifオリンピック予選第一戦:日本代表VS南アフリカ代表
 あきれた。
 いや、試合そのものがどうだってことじゃない。どの選手が悪かったとかサエなかったとか、そういう話でもない。
 試合についての論評は控えておく。
 どうせ意味のあることは書けないんだから。
 気勢をそがれて、意気阻喪して、なんだか虚無的になってるわけだし。

 どうしてサッカーの試合を観たあとに虚無的になってるのかって?
 まあ、なんて言うのか、説明は難しいけど……人間の営みがつくづくばかばかしくなったわけだ。
 だって、くだらないだろ? 他人のやってることに熱狂するなんてさ。
 ん?
 試合なら勝ったよ。
 見事な逆転勝ちだった。
 うん、ひいきのモトやんも出たし、大好きな高原君が二点とってくれた。
 伸二が出なかったのは残念だったけど。まあ、良い試合だったよ。
 それなのになぜシラケてるのかって?
 うーん。
 他人の悪口はあんまり言いたくないんだけどなあ。
 でも、言おう。
 フナコシのせいだよ。
 オレがこんなふうにシラケてるのは、実況の船越のせいだ。
 せっかくの好試合を台無しにされたわけだからね。

 二点目の高原のゴールが決まった瞬間、オレは立ちあがりかけたまま凍りついていた。
 船越が
「ゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴルゴル(以下略:約1分続く)」
 と喚いていたからだ。
 オレは、静かに座り直した。
 そして、ちょっと長めの呼吸をひとつ吐き出してから思った
「ばかみたいだよな。サッカーなんかに夢中になってさ」
「まったく四十三歳にもなって」
 ねらい通りだよ船越君。
 キミはサッカーを滅ぼしたいんだろ?
 だったらキミの狙いはものの見事に当たったわけだ。

 なあ、フナコシよ。
 想像してみてくれないか。
 たとえば、キミに惚れた女がいたとする。
 いるだろ?
 いまいなくても、若い頃はいただろ? 惚れた女の一人や二人はさ。
 で、だ。
 おまえが、その惚れた女と思いを遂げたとする。
 別にセックスじゃなくてもいいよ。手を握ったんでもくちづけをかわしたってことでもいい。
 あるいは、そういう即物的な想像が嫌いなら、はじめてのデートで「好きだ」って言ったとか言われたとか、そういう瞬間でもいい。とにかく思い浮かべてみてくれよ。そういう輝かしい瞬間をさ。
 で、その瞬間に、うしろからいきなり背中をどつかれて
「おい! フナコシ! うまくやってるじゃねえか」
 なんて言われたらどんな気がすると思う?
 わからない?
 おい、本当に想像がつかないのか?
 とことんニブいヤツだなお前は。

 わかったよ。
 そういうことならオレがわからせてやる。
 なあに、経験してみればいいんだ。
 お前の家の寝室のベッドの下に忍び込んで、オレは待つよ。
 何日でも待つぞ。
 お前がヨメさんとセックスをはじめるのをさ。
 で、突然ベッドの下から現われて実況してやる。
「さあ、フナコシのピストンがはやくなってきたぞぉー。さあピストンピストンピストンピストンだぁああ。ピスピスピスピスピス。ソレレソレソレどうだどうだどうだどうだどうだどうだぁ フニャコシの汚名を晴らすときが来たぞ。どうだフニャコシアゴあがってないかぁー、今日こそはイケるかぁあー。来た来た来た来たぁああああああ! いよいよ感極まってきたぞぉー。さあ射精だ射精だ射精だ射精だ出るぞ出るぞ出るぞ出るぞ」
 な。
 ヤだろ?
 オレだって書いててヤなんだよ、こんなこと。

 ともかく、お前だって、他人にそういうことされたらイヤな感じがするって、それだけはわかってくれただろ。
 だったら、お前もほかの人間が楽しんでいる時にはなるべく邪魔しないように心がけてくれよ。
 ゴルゴルゴルゴルって、そういうことでお前の売名が成功するのかどうかは知らんが、こっちの都合だってあるわけなんだからさ。
 それとも何か? お前、そういうのが好きなのか?
 実況してほしいのか?
 フニャコシピストン劇場を全国放送してほしいのか?  してほしいなら、オレにメールをよこせ。
 トップページの一番下にアドレスがあるから。
 な。
 フナコシよ。
 謝罪のメールでもいいんだぞ。
 一週間以内に謝罪のメールを寄越せば勘弁してやる。

 試合について一言だけ。

やなぎさわ 蝶になれへん さなぎやわ

 いや、ただのシャレだよ。
 気にしないでくれ。
 芋虫フォワードだなんて、そういうふうに思ってるわけじゃないんだ。
 私はキミを評価している。
 点なんか取れなくてもいいんだ。
 引き続き、質の良い動きを続行してくれ。
 交代で出てくる、モトやんのために。


9月15日 金曜日 晴れ
 Napsterに熱中。
 すごい。
 主にブライアンフェリーの取りこぼしもの、ディランの各種カバーを収集。
 ほかに、ギルバート・オサリヴァン、ベット・ミドラー、ランディーニューマンといったあたりの二流ながらも棄て難い芸達者の人々をピックアップした。念願のリッキ・リー・ジョーンズも見つけた。
 掘り出し物だったのはレオン・ラッセルのライブとアートガーファンクル。
 ガーファンクル&サイモンにジェームステーラーのトリオで歌う「ワンダフルワールド」(サム・クックの名曲)は絶品。
 あんまり気に入ったので、歌詞を翻訳する。

おいらは歴史には詳しくない
生物学もてんでダメだ
科学の本なんかテンから理解できないし
自分で食ってるフランス料理の名前さえ読めやしないんだ
でも、お前に惚れてるってことはわかってる
もし、お前がオレと同じ気持ちだったら
この世界が最高に素晴らしい場所になるってことも

地理に関する知識はほとんど無い
三角関数も知らない
代数もわからないし、正直なところ計算尺が何のためにあるのかも見当がつかないんだ
でも1たす1が2だってことはわかってる
お前とオレを足し算にしたら 世界がどんなふうに素晴らしく見えるかってことも
自分が優等生だなんて言うつもりはないよ
でもそうなるようにつとめるつもりだ
もし お前を手に入れられたら
それこそAクラスってことじゃないか
おい

中世の歴史はまるで知らない
だからそういう本は、絵だけ見てページをめくる
ローマ帝国の興亡だのって話もまるっきりだし
本当のところを言えば
何についてもからっきし何にも知っちゃいないわけだよオレって男はさ
オレが考えているのはお前のことだけ
それでお前がオレと一緒になってくれたら
それが一番って、そういうことを言ってるわけなんだよ さっきから

 うむ。いい歌だ。
 この歌をいずれ劣らぬインテリの三人衆が歌っているというところがなんともいえない。
 心に染みる。
 歴史や三角関数に詳しい(と思うよ)この三人は、いずれもアイラブユーが苦手で、サムクックみたいに素直な愛情表現ができない。
 うむ。
 でも、付き合ってる女についての不満をぐちぐち言わせたら、ポールサイモンは業界一だ。
 別れた女を罵倒させるってことなら、ディランにはかなわないけど。



9月16日 土曜日 曇りのち雨
 浦和レッズは大宮アルディージャに負けた。
 テレビ埼玉で観ていたけど、感想は書かない。
 ペトロビッチの引退セレモニーが行われた。
 感想は書かない。
 ペトロはわかっているはずだ。
 さようなら、ペトロビッチ。

 寝ます。