2000年 1月1日 土曜日 晴れ
 実家に顔を出す。
 おせち料理はどうしても好きになれない。
 っていうか、好きな人がいるんだろうか?
 昔は、正月休みの間、食材が手にはいらなかったわけだから、このテの調理済み保存食が必要だった(「主婦が三が日をゆっくり休むため」という意味合いもあったのかもしれない)のだろうが、こういう時代におせちみたいなものを出す意味があるんだろうか。
 だって、どう食べてもマズいわけなんだから。
 あっ、聞き流してください。
 偏食家のジャンク批評ですから。


1月2日 日曜日 晴れ
 Eホバの証人と対面。
 信仰を持たない哀れな仔羊は、相手の優越感を丸呑みにしてお茶を濁すほかにどうしようもない。
 親戚というやっかいな人々。
 他人であれば、絶交覚悟(っていうか、望むところなわけだしね)で失礼が言えるんだが、それができないところが親戚づきあいのいまいましさだ。
 友人は選べるが親戚は選べない。
 うじ虫は踏み潰せば良いが、親戚は踏み潰せない。  いや、ここまで言うことはないのだ。
 つまり、面倒くさいんですね。正月にしか会わないことが分かりきっていてさえ。
 
 誰が何を信じようがそれは個人の自由だ。  Eホバでも何でも勝手に信じておればよい。

 しかし。
 無邪気に信じきっている二人の娘が哀れだ。
 タバコを吸うオレを悪魔だとでも思っているのか、ろくに返事もしない。
 しょせん「世の人」は滅び去る運命にあるってことか?
 そんなことじゃ学校でも苦労するぞ。
 なあ、心を開けよ。
 ハルマゲドンなんか来ないんだから。
 教えてあげよう。
 人であれ、神であれ、何かの信条であれ、無条件に信じるのは、そりゃ精神の頽廃だぞ。
 だって、何かを信じるということは、その何かについて判断を放棄することだろうが。
「その通りだ、わが子よ。信仰は怠慢だ」
 では、主よ、なぜあなたは人々に信仰を求めるのですか?
「だって、楽になった方がいいだろう?」
 主よ。あなたは民をたばかるおつもりなのですか?
「ちっぽけな鰯頭でモノを考えるよりは、信心した方がマシだってことだよ」
 思考停止がですか?
「その通り。どうせロクなこと考えやしないんだからな」
 ……しかし
「お前自身、マニュアルを読まなかったせいで、ずいぶんトラブルにあってきたじゃないか」
 ……主よ、しかし、パソコンと人生は違うのではないかと……
「同じだよ。マニュアルをきちんと読んで、指示通りに扱えば何も問題は起こらない。それを、お前みたいな思いあがった半可オタクは、自分勝手な判断でコトを進めて、結局墓穴を掘るわけだ」
 素人がレジストリをいじったりするなと?
「アプリケーションを利用してれば十分だろ? 何が不満なんだ?」
 ……いや、不満とかそういうことではありません。ただ、真実が知りたいと……
「真実? ははは。教えてやろう。そんなものはねえよ」
 ない?
「強いて言うなら、真実とはオレの意志だよ」
 で、その意志はいったいどういうものなんでしょう。
「知りたいか?」
 ええ。
「人間には真実が理解できない」
 は?
「だから、お前たちには、神の意志なんて金輪際わかりっこないってことが、唯一の真実なんだよ」  神の人間に対する優越とか、そういった類の話ですか?
「その通り」
 まったく、あんたもロクなもんじゃないな。言ってることからやることまで、そこいらへんのスナックの止まり木に貼りついてクダ巻いてる酔っ払いのオヤジと同じじゃないか。
「ふん、人間なんかにオレの気持ちがわかってたまるものか。」
 いや、お前みたいな人間は腐るほどいるぞ。七十ヅラ下げて退任しようとしない財界の偉いさんとか、中小企業のワンマン社長とか、お前にそっくりだ。
「オレがワンマンだと?」
 そうだよ。もう少しリベラルになれないか?
「リベラル? リベラルな神? 民の声に耳を傾ける民主的な神か?」
 そう。だったら信じてやってもいいぞ。日曜日の朝とかは、注文を取りに来るべきだな。
「注文?」
 信じてほしいんだろ? サービスしろよ。
「イヤだといったらどうする?」  地獄に堕ちやがれ。 ……未完……
 Eホバよ。
 オレのアドバイスを受け容れる気になったか?
 返事を待ってるぞ。


1月3日 月曜日 晴れ
 異常な生暖かさ。
 Y2Kについては、深刻な問題は結局何も起こらなかったようだ。
 当たり前だ。
 我々が住んでいるこの世界は、コンピュータのバグが致命的な影響を及ぼすほど規律正しいシステムではない。
 そもそもが混沌と無秩序でできあがっているんだから、いまさらどこに故障が発生したところで、たいしたことにはならない。
 というよりも、オレとしてはコンピュータがバグを含んでいるなんてことを、いまさら専門家の先生に言われたくないな。
 だって、バグ含みで付き合うんじゃなきゃこんなものとは付き合えっこないんだから。
 それに、バグは日付に限った話ではない。
 最もおそろしいバグは、予測不能なバグであって、その意味からすれば、律儀にアポを取ってから現われてくれる今回のY2Kのバグは、むしろクセが良い。
 実際、コンピュータが万能だなんて思っている人間がいるのか?
「コンピュータの万能を信じているととんでもないことになります」
 なんて言っている連中が、その実、一番コンピュータの万能を信じているんじゃないのか?
 原発関連でいくつかバカなことがあったようだが、あの人たちは本当にバカだったようだ。
 これだけ注目されている中で、あのザマなんだから。
 

1月4日 火曜日 晴れ
 ラーメン。
 午後の半端な時間帯であるにもかかわらず、店はけっこう繁盛していた。
 たぶん、三が日が終わるこのあたりがラーメンのタイミングなのだろう。
 つまり、誰もがおせち料理にはうんざりしてるってことだ。
 正月にも。
 

1月5日 水曜日 曇り
 引き続き独身生活を満喫。
 愛人と密会?
 まあ、オレの愛人と言えるのはオレ自身ぐらいなもんだから、そう言えば言えるかな。
 淋しくないかって?
 君たちこそ淋しくないのか?
 他人に自分の時間を奪われてさ。


1月6日 木曜日 晴れ
 慈恵医大病院に出動。
 東京地方は3月下旬から4月上旬頃の気候ということだが、確かに異様に生暖かい一日だった。
 都内の道路はまだすいている。
 ハルマゲドン日和だな。


1月7日 金曜日 晴れ<BR>  高校サッカー準決勝、市立船橋VS前橋育英は、両校無得点でPK戦の末、市船が勝利。鹿児島実業VS富山第一は、鹿児島実業が快勝。鹿実の11番、内野という選手は面白い。ドリブルが独特。ちょっと小柄過ぎるのが弱点か。モリシマみたいだ。

 ●マラドーナ、緊急入院
 コカインの陽性反応が出たという。
 ううむ。

 総理府(?)だかのやっている反麻薬キャンペーンでは、「ドラッグはあなたの人生をこなごなにします」みたいなキャッチコピーを使っているが、これはあんまり適切じゃないと思う。
 思春期に属するある層の人間にとって「人生をこなごなに……」というのは、なんだか素敵なセリフみたいに聞こえているはずだから。
 破滅がどういうことかわかっていない若い連中は、「破滅」という単語から、安っぽいデカダンス趣味や夭折願望を導き出す。尾崎豊やジェームスディーンの神話化や腐れ少女漫画の夭折賛美思想だとかを例に挙げるまでもなく、若い人々というのは、とかく早死にに憧れるものだ。なんとなれば、若さ以外に取り柄を持たない彼らは、素敵な年寄りになる自信がないわけだから。
 とすれば、そういう連中に麻薬の恐ろしさを訴えるには、むしろ、破滅のみっともなさ、ドラッグにとらわれた人間の醜悪さをアピールする方が良い。
 たとえば、「シャブをやるとたった1年で10年分歳をとるよ」とか。「コカイン常習者の肌は、鉛筆が削れるほどガサガサなんだぜ」とか、「ジャンキーはインポになるよ」とか、そういった種類の情報の方がドラッグ防止には役立つだろう。
 夭折だとか破滅だとかに憧れを抱いているクソ甘ったれた若い連中に限って、歳を取ることや醜くなることを恐れている。
 とすれば、この際、逃げ道なんかないぞということを、厳しく提示すべきだ。
 あらゆる死は等しく醜悪で、すべての人生は同じように退屈だ。
 って、何が言いたいんだ、オレは。

 ともかく、ドラッグはサッカーからマラドーナを奪った。これは、本当に取り返しのつかないことだ。しかもドラッグは、ベースボールからダリル・ストロベリーを奪い、ロック・ミュージックからマーク・ボランとジミ・ヘンドリックスを奪った。
 勘違いしてもらっては困る。
 私は、ドラッグがマラドーナからマラドーナの人生を奪ったことを惜しんでいるのではない。私は、ドラッグが、私からマラドーナのサッカーを奪ったことを嘆いているのだ。
 もしマラドーナがあれほどに卓越したサッカー選手でなかったら、ドラッグで自滅したところで、私はたいして心を痛めなかっただろう。。
 私は、そこいらへんの若い愚かな連中がドラッグに手を出して自ら墓穴を掘ることに、いちいち心を痛めたりはしない。本心を言うなら、ドラッグを美化したりするようなバカは、ドラッグに滅ぼされるべきだとさえ思っている。
 とすれば、キャンペーンのキャッチコピーはこう書かれるべきだった。
「ドラッグはバカを刈り取る除草剤です」
 うん。
 酒もね。
「でも、人生のバカバカしさから逃れるためには、酒でも飲んでバカになるほかに方法がないだろ?」
 うん。オレもそう思ってた。
「で、酒をやめて、人生は充実したか?」
 ふん。酔っ払いなんかに教えてやるもんか。


1月8日 土曜日 晴れ
ball20.gif高校サッカー決勝戦 市立船橋VS鹿児島実業
2-0で市船が圧勝。鹿実攻撃陣は、市船カテナチオに手も足も出ず。

●高校の仲間が集合。
 M田、M島夫妻、A木夫妻、K関、S和の面々。
 十条の中華料理屋で一次会の後、M島夫妻を除くメンバーはS和邸にて二次会。
 内臓の話をして11時過ぎに散会。
 まるで自分たちが内臓の外部器官であるみたいに……って、いつだったかどこかの原稿に書いたことがあるが、実際、四十歳を過ぎた男は内臓の付属物に過ぎないのかもしれない。
「胃カメラってさ」
「肝臓のガンマなんたらが」
「胆嚢の石が」
 そんな話ばっかりだった。
 しかも、酒を飲みながら。
 ばか。
「酒やめてつまんなくないか?」
 と聞かれた。
「つまんないよ」
 と答えた。
「酒なんか飲んで面白いのか?」
 とは聞かなかった。
 面白い答えなんか期待できないからね。