11月14日 日曜日 晴れ
 父親ほか二名のご老人を千葉県の印西市まで送迎。
 同級生の一周忌法要とのこと。
「会うのは葬式とか法事ばっかりだな」
 車中の会話は病気情報一色。
 男もこの年齢(74歳)になると、健康なヤツの勝ちということになる。

 印西市の「千葉ニュータウン」は、どうやらバブル期の負の遺産に見える。
 広大な遊休地と過剰に立派な市庁舎。
 どこからか誘致してきたらしいいくつかのデカいビルディングと空家だらけの建売住宅。
 おそろしく閑散とした巨大駐車場付きのショッピングモール。
 サイバーパンクだな。


11月15日 月曜日 雨
 中森明菜が引退の危機だという。
 別にいまさら引退なんかしなくても既に消えていると思ってたけど。
 ファンにとっては、ミイラになっても生きているように見えるってことなんだろうか。
中森ヴァギナという心無いジョークがあったことを思い出す。
 合掌。
 明菜よ。引退したほうが良いぞ。
 本気で心配している人間なんて、一人もいないんだから。
 世間の連中が君を惜しむのは、より凄惨な末路を自分の目で確認したいからに過ぎない。
 彼らは、中途半端な破滅ストーリーに決着をつけたいだけなんだ。
 明菜よ。
 君に再デビューを促す人間は、今後も、現われつづけるだろう。
 しかし、だまされてはならない。
 彼らが目論んでいるのは、君の破滅だ。
 痛々しさということが、最も現代的なタレント性であることに、彼らは気づいている。
 注意したほうがいい。
 彼らは、君が堕落すればするほど拍手を送るだろう。
 気が付いた時、君は断崖から海を見下ろす位置に立っている。
 もちろん、観客は固唾を呑んでいる。
 としたら、飛び降りずにいられるものではないじゃないか。
 明菜よ。
 いまこそ期待を裏切るべき時だ。
 たとえば、20キロぐらい肥って、イトーヨーカドーのスウェット上下を着るっていうのはどうだ。
 なあに、怪訝な顔をされるのは最初のうちだけだ。
 世間は、気楽に構えている無神経なデブを信用するものなんだ。
 だって、自分がそうなんだから。


11月16日 火曜日 晴れ
 M島の嫁さんが来日したというので、近所のイタ飯屋でディナー。
 総勢10名。
 会食ってやつだ。
 イタリア料理自体はともかく、あのディナーという形式(二時間かけて料理を小出しにするやり口)にどうしてもなじめない。
 さっさと出せよ。
 もったいぶるんじゃねえよ。
 ってことで、私は前半にパンを大量摂取して、メインディッシュが出てきた時には満腹の状態だった。
 いつも同じだ。
 が、これでいいのだ。
 食卓の会話なんてくそくらえだし、カルパッチオについての批評だの講釈だのを聞きたいわけでもない。
 まして、ワインを呑んでるバカ相手に百万ドルの笑顔を見せるだなんて……
 いや。
 これ以上の言及は控える。
 仕事は詰まっているし、レッズは瀕死だし、オレは正常じゃないんだから。

 夜、筑紫さんの原稿をあげた。
 やるべきことをやっておかないと、明日の試合で、選手に全力を要求できない。
 オレがだらしなく締め切りを延ばしていたせいで、レッズは……
 なんて、そういう後悔はしたくないからね。

 そう。
 人事を尽くして天命を待つべきだ。
 真の勝利者とはベストを尽くした者のことなのだから。
 って、いまから二部落ちの予防線張ってどうする。


11月17日 水曜日 晴れ
 運命の市原戦。
ball20.gif浦和VS市原
 駒場スタジアムは、試合前からものすごい雰囲気。

 試合後、レッズの掲示板を見ると、「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」みたいな、無意味な書きこみが山ほど溢れかえっていた。
 深い感動にとらわれた時、人は低能になる。
 でなくても、ボキャブラリーは3つぐらいになる。
「うぉおおおおおお」
「やったああああああ」
「よっしゃああああああ」
 だいたいこの3つのステートメントがあれば、勝利の感動は語り尽くせるのではなかろうか。
 とすると、ワインの味について雄弁に語ったりしているソムリエとかいった連中は、ありゃウソつきだな。
 でなけりゃ、ただの形容詞自慢の芸人で、ワインの味に感動しているわけじゃないってことだ。
 とにかくよかった。
 駒場スタジアムの発煙筒は、ヨーロッパみたいだった。
 素晴らしい。
 公共心?
 立小便のマナーのことか?


11月18日 木曜日 晴れのち曇り
 勝利の余韻で仕事がはかどる。動物占いも吉。
 Y氏より、祝福の電話。
 レッズの右サイド山田ノブ問題について意見を交換。
「あれだけ素晴らしいドリブル突破力を持っているのに、どうしてその後のシュートやパスが腐っているんだろう」
「要するに足元しか見てないってことじゃないんだろうか」
「つまり、目前の選手を抜くことばっかり考えてるってことか?」
「うん。古いタイプのドリブラーだな。気持ちがいいね。抜いて抜いて抜いて、フカす。」
「2人抜くまではいいんだけど、そこで逆サイドに展開するとかいった知恵がないんだな。で、3人目を抜きに行くんだよなあ」
「最終的にキーパーまで抜かないと点にならないタイプだな」
 ううむ。
 なんだかオレに似ている。
 目前の敵を突破することばっかり考えていて、遠くを見ていない。
 いや、オレの場合、足元もあんまり見てないか。


11月19日 金曜日 晴れ
 ライフスペースのおやじがテレビでしゃべっていた。
 びっくり。
 ヤラセか?
 だとするとかなり出来が良いぞ。
 本気だとすると、狂ってるってことだろうか。
 いや、教祖のオヤジは、狂ったふりをしてるだけだと思う。
 狂っているにしては、時々現われるマトモな表情に人間味がありすぎる。
 もしかしたら周囲の連中も引っ込みがつかなくなって信じたふりをしているだけで、それを報じている記者さんたちも、びっくりしたふりをしているだけなのかもしれない。

 いや、というよりも、ライフスペースの連中はメディアをからかっているのだ。
 彼らが何かにつけて持ち出す「定説」というのも、メディアの連中の言う「知る権利」だとかいった建前論を揶揄するための皮肉に違いない。
「だからどうして?」
「定説です」
「どこが定説なんですか?」
「そういうあんたは、なぜそんなことを?」
「だから知る権利です」
「何が?」
「知る権利です」
 つまり、知る権利という不埒な権利に対して、出鱈目をぬかす権利というそれ以上に野放図な権利を対置させたわけで、このやり方は、メディア対策としておそろしく有効だ。
「ナカータさん、日本のファンに何かメッセージを」
「定説」
「ノモさん。来季の方針は?」
「定説」
「イラブさん。ヤンキースとの交渉は?」
「定説」
 すごいぞ。
 質問を無化するという意味では、イラブの「イナゴ」発言や、中田の「うじ虫」発言よりはるかに洗練されている。
「で、トルシエさんは、A代表の編成についてどのような?」
「毛虫のケツのアナだな」
「は?」
「更年期障害の女吸血鬼がいたとして、彼女に純潔が期待できるか?」
「あの、言ってることの意味がわからないんですが」
「わかるくらいなら何も言わないよ」
「は?」
「だから象のハナクソは長いのか? それとも丸いのがいっぱいか?」
「……」
「ふん。もう少し勉強してきなさい」


11月 20日 土曜日
ball20.gif浦和VS平塚
 相変わらず駒場の雰囲気は凄い。
 元来、私はこの手の集団的熱狂が大嫌いなはずなのだが、レッズについてだけは別だ。
 駒場のスタンドに座っていたら、私は立ちあがって歌っているだろう。
 バカみたいに大口をあけて。
 
 母校愛、愛社精神、愛国心……考えただけで虫酸が走る。
 が、サポーターシップは別だ。
 小林クン。
 ひいきのサッカーチームを持ちたまえ。
 ニッポンなんていう弱小チームのサポーターをやっていても何も良いことはないぞ。
 実戦も当分無さそうだし、なにより、選手のモチベーションが低すぎる。
 小林クン。
 レッズを応援してみないか?
 駒場のスタジアムには、キミの求めているすべてのものがある。
 熱狂、挺身、共生感、自己犠牲、そして、時には死すらも。
 どうだ?
 それともキミはただの歴史屋か?


 
 勝った。
 うん。
 勝てばなんでも良い。
 食えるのならイモのツルでも良い。
 味だの食卓の会話だの文化だのと、オレたちはそういう半可くさいことを言うつもりはないし、中盤の構成がどうであれそんなことを問題にするつもりもない。
 そう、必要なのはタンパク質であり、炭水化物でありビタミンであり脂質であって、料理なんぞではない。
 その意味では、我々は勝ち点の難民であり、駒場のピッチは北朝鮮なのだ。
 小野伸二万歳。
 我々の輝ける太陽である若き希望の……以下略