8月22日 日曜日 晴れ
 夕方、長い昼寝をしていると妻から電話。
「Power Mac G3 400 zipを買った」
 とのこと。

 ん?
 事態が呑み込めない。
 どういうことだ?
 そういえば、金曜日にアキバにマシンを買いに行った時、アップルのスマートローンのビラを熟読している様子だったが……。
「そうなのよ。ダメもとで新宿のビックカメラでスマートローンを申し込んでみたら、まさかと思ったけど、審査が通ったの」
 ということらしい。
 ん?
 だから何なんだ?
 ローンの審査に通るということは、そんなに素晴らしいことなのか?
 向こうだって商売なんだから、いくらウチにカネが無くったって、彼らの側の思惑としてなんとか代金を取り立てる算段さえつけば審査なんてバシバシ通すんじゃないのか?
「でね。せっかく1%でローンが組めるんなら高いのを買わないと損だと思って」
 …………
「あっ、ついでにスカジーのボードと、純正の17インチディスプレイも買っといたから」
 ……  うん。
 わかっている。
 間違っているのは、たぶん私の方なのだ。
 たかだか十数万円のマシンを買うのに、店頭で脂汗をかいて、2時間も迷って、あげくの果てに1300円のLANボードを買うのに、いちいち箱を開けて中身を確認しないと安心できなかったオレが、小心者だってことなのだ。

 そう。
 きっと、妻の方が私よりも人間としてのスケールが大きいのだと思う。

 マシンは火曜日に届くと言う。
 総額約40万円。
 私のマシンの3倍に近い額だ。

 私は、何も言わなかった。
 小心者が天空海闊な大人物に文句をつけてみてもはじまらない。

 そんなわけですので、誰か、これを読んでいる人で、DTP関係の人がおりましたら、妻に仕事を発注してやってください。
 マックをベースにした仕事ならクオークでもイラストレーターでも何でもやります。
 やたらに七面倒くさいレイアウト作業だとか、クソ面白くもない広告ビラだとか、威張りくさった役人がクライアントの型にハマった泥んこ仕事だとか、シジフォスの刑罰みたいなデータ変換業務だとか……そういうのがいいですね。
 家事はどうするのかって?  大丈夫。  納豆をかきまぜるぐらいのことは私がやります。  メールアドレスはmikka@asahi.email.ne.jpです。
 よろしく。
 賽の河原の石積みみたいなグラフィックデータのゴミ取り仕事でもいいですよ。


8月23日 月曜日 晴れ
 軽井沢&マシン交換で滞っていた仕事をちまちまとこなす。
 夕刻以降、いじいじとインストール。
 そういえば、ここのところテレビをまったく観ていない。
 度外れて不幸な人間と度外れて幸福な人間はテレビを観ない。
 私はどっちだろう。
 

8月24日 火曜日 雨
 マックが届く。
 パッケージからしてなんだか様子ぶってやがる。
 シナ作ってるんじゃねえよ。
 と、インディーズ系マシンのオーナーとして、ちょっと不快な気分になる。
 
 午後になって、ひどい雷雨。
 落雷を警戒して、ニューマシンへの通電を見送る。
 私のマシンはかまわず起動しておく。まだ買ってから4日だが、すでにニューマシンでもなければ主役でもない。
 夕刻。雨が小止みになったのを見計らって通電。
 おおおおおお。
 静かだ。
 オレのマシンがボンゴディーゼルだとすると、テキのマシンはまるでセルシオかベンツのゴーマルみたいだ。
 いや、ボンゴディーゼルもおこがましいか。
 ピザ屋の屋根付きバイクか?


8月25日 水曜日 晴れ
 MP3にハマる。
 昨晩、体験版をダウンロードした「MP3ジュークボックス」を早速オンライン購入することに決定。
 アメリカやらイギリスやらのサイトから懐メロをいくつか入手してwinampで一日中流す。  素晴らしい。   おそらく、向こう5年ぐらいのうちに、音楽業界は未曾有の大混乱に陥ることになるだろう。
 だって、録音からCDの流通からが、ド素人の個人の手に握られることになるんだから。
 素晴らしい。
 高音質の音楽が、タダで手に入るのだ。
 それだけではない。
 ネットの中には、著作権の放棄を宣言するミュージシャンが続々と現れている。
 素敵じゃないか。
「歌でメシを食おうなんて思わないよ」
 おおお。
「聴いてもらえるだけで十分じゃないか」
 その通りだ、若者よ。私はキミたちの味方だぞ。
 音楽を作った人間が、自分で演奏して、自分で録音して、それを自分の責任において配布する――業界のハイエナ連中がクビを突っ込む隙間は1センチだって残らない。
 いいぞ。
 その調子でこの世から著作権という文化的不労所得を抹殺してくれ。
 著作権は、さしたる根拠を持ったものではない。
 せいぜいがこの1世紀の間に出来あがった商売の道具に過ぎない。
 音楽に限らず、この世の中に100パーセントのオリジナルが存在しない以上、クリエイターが作品の対価として金銭を得るのは、一種の詐欺だ。
 でなくても、創作なり表現をした人間が、喝采以上のことを期待するのは、あさましいと思う。

 オレか?
 まあ、乞食だよな。
 コラム乞食。
 人並みはずれた小心と、ちまちました勤勉がメシの種です。
 芸人だなんて、そんな思い上がった考え方はできません。
 だって、傷痍軍人のハーモニカは、ありゃ芸じゃないでしょうが。


  8月26日 木曜日 晴れ
 飯山のディスプレイについて、いくつか情報のメールをいただいた。
 やはり、イーヤマはまずいようだ。
 実際、嫁さんのマシンのディスプレイ(アップル純正17インチ)を見ると、画像の違いにちょっと唖然とする。
 まあ、あっちは新品だということを差し引いてみても、あんまりにも明るさが違いすぎる。
 インターネットの写真とかは、まるで別世界みたいに美しいぞ。
 こういうことでいいのか?
 いままでは比較の対象が嫁さんの旧マシン(パフォーマの古いやつ)だったので、たいした差は感じていなかったのだが、おい、まるで違うじゃないか。
 なんとかしようと、コントラストやブライトネスをいじってみたが、どうしても、鮮明な色は出ない。
 そうだったのか。
 オレは、3年間も、ずっと本当の色を知らないで生きてきたんだな。

 テレビをつけると画面に微妙なシワが寄ることとか、扇風機をつけると画面が震えることとか、これまでは「まあそういうものだろう」と思ってきたが、なんだか信用できなくなってきた。


8月27日 金曜日 晴れ
 「MP3 JUKEBOX by MusicMatch」の解除キーが届いたので、早速手持ちのCDをMP3に落としまくる。
 徹夜になった。
 素晴らしい。
 ハードディスクがそのままジュークボックスになる。
 素晴らしい。
 最近読んだ「ハイ・フィディリティ」という小説に、「手製のオムニバス・テープを通じてしか自己表現できない若者」が出てきて、なんだか身につまされたが、実際、思春期からこっち、私もそんなふうだった。
 ディランを「お経みたい」だと言った女とは、結局どうやってもうまく付き合えなかった。

 究極のフェイバリット集を作るべく家中のCDをひっくりかえして、一晩で、600メガほどのコレクションを作った。
 時間にして約11時間、曲数にして180曲。
 それでも、まだまだ道は遠い。
 というのは、いま作っているのは「一発屋」コレクションで、本命はその後だからだ。
 具体的に言うと、現在は、たとえばドン・マクリーンみたいなアルバムを通して聴く気はしないけれど、それでも「アメリカン・パイ」だけはフェイバリットからはずせない人たちの特集を作ることに専念しているわけです。
 これが、けっこうたくさんある。
 漏れもある。
 こういう人たちは、アナログのLPで持っていたものであっても、CDで買い直す気がしないわけで、となると、MP3の音源としては、手元にないってことになるわけだよ。
 LPも捨てちゃったし。
 で、リッキー・リー・ジョーンズ(「チャック・イーズ・インラブ」って良い曲だったよなあ)だとか、ナック(「マイ・シャローナ」)だとかを手に入れようと、赤羽のTSUTAYAに行ってみたのだが、いかんせん、このレベルのB級ミュージシャンは、レンタルのカテゴリーにはいってこない。
 じきに御茶ノ水にでも遠征をかけねばならないだろう。

 A級ミュージシャンはどうするのかって?
 当然、一人ずつそれぞれのフェイバリットを作ります。
 ディランでCD-R一枚(ってことは、つまり100〜200曲見当ですね)。
 ルーさんで1枚。
 ボウイもスプリングスティーンも各一枚。
 あとはブリティッシュプログレッシブで1枚。ビートルズは解散後やらを含めると2枚になるだろうか。
 
 道は遠い。


8月28日 土曜日 晴れ
ball20.gifUEFAスーパーカップ マンチェスターU VS ラツィオ
真夜中、ケーブルテレビで観戦。
 明け方、妻子を霧が峰に向けて送り出した後、MP3データ作りに復帰。
 宝の山を発見。
 S川から借りたまま返さずに置いてあるCD12枚組の'70ヒットシングル大全集および、2枚組のブリティッシュ一発屋オムニバス、だ。
 おお、ドン・マクリーンもいるし、ボストンやらガゼボだとかいったゲテモノもいる。B.J.トーマスのクソおやじからキャプテンビーフハートまでいるじゃねえか。
 ……しかし、リッキー・リー・ジョーンズは見つからない。ゴングもグラハム・パーカーも見当たらない。
 ロキシーはちゃんとしたのを作るからいいとして……
 
 てなわけで、一日中、'70ヒットシングルの世界に埋没。
 珍しくセンチメンタルになる。

 古い音楽に抵抗できる人間はいない。
 古いヒット曲ほど、古い時間を鮮やかに保存しているものはない。
 そして、ポールサイモンの言った通り、思い出というのは、喪失そのものなのだ。
 正確に言えば、「ブックエンド」の中で彼はこう言っている。
Time it was,
And a time what was,
It was...
A time of innocence,
A time of confidences.
Long ago...It must be...
I have a photograph.
Preserve your memories;
They are all that's left you.
 もしかしたら、私がこの20年間、最も情熱を傾けてきた対象は、音楽なのかもしれない。
 なんだか、悲しくなる。
 不幸にして私には、音楽の才能が宿ることはなかった。
 それでも、才能のあるなしにかかわりなく、私は、こんなにも長い間、こんなにも音楽を愛してきた。
 片想い、だ。
 うむ。
 もしかしたら、あらゆる情熱は、基本的には片想いなのかもしれない。
 寝よう。