8月1日 日曜日 晴れ
 こんなに暑い夏は、ここ数年記憶にない。
 異常気象だろうか?
 ……などと、アオってみても、なんだか空しい。
 だって、1999年の7の月が終わって、結局、ハルマゲドンは来なかったんだから。
 残念。
 これでまた終わり無き日常に逆戻りだ。
 というのは、ウソ。
 終わり無き日常なんていうのは、腐れインテリの言葉遊びに過ぎない。
 ボードレールじゃあるまいし、あんた(宮台クン、キミのことだよ)みたいな書生役人に貴族気取りの倦怠を見せ付けられるのは迷惑だ。
 日常に終わりがあってたまるものかというのだ。

 とはいうものの、なんとなく拍子抜けした人は多いことだろう。
 なにしろ、このハルマゲドン騒ぎには年季がはいっている。
 私が中学生だった時からだから、かれこれ三十年になる。
 つまり、この三十年の間、私と同世代かそれより下の世代の人間は、ハルマゲドンを信じてはいないまでも、心のどこかで気にしながら生きてきたわけだ。
 まったく。
 バカげた法螺話ほど、影響力がデカかったりするから始末に負えない。
 蓋然性という概念を持ちこんだが最後。法螺と真実の違いは、程度差だけってことになる。

 今朝、見知らぬ人から「ハルマゲドン9月説」を示唆するメールが届いた。 
 しかもその説を主張しているのは、私の知り合いだという。
 対応のしようがないな。
 パラノイアは伝染病なのかもしれない。
 事実、それは500年の時を超えて伝染している。
 9月が終わったら?
 なあに、時期なんて問題じゃない。
 起算やら計算やら解釈やらをいじくればどうにでも先延ばしができる。
 結局、世界の破滅を仮定しないと、自分の死を納得できない連中がいるってだけの話なのだ。
 彼らは、ケチくさい人生を生きて、たった一人で死んで行くのが淋しいのだ。
 気持ちはわからないでもない。
 が、あんたたちの人生が空しいことを、世界のせいにされても困るんだな、オレとしては。
 あるいは、連中は、自分の人生が不当に凡庸であることについて、創造主に復讐の念を抱いているのかもしれない。
「オレがこんなケチな存在でいる以上、世界には滅んでもらわねばならない」
 矮小な自己肥大。
 冗談じゃない
 オレはあんたたちと心中するつもりはないよ。
 死ぬ時ぐらい一人で死ねよ。
 生きてる間中、誰かとツルんでるんだから。

    ところで、キム・ジョンイルが何もしなかったのは、ちょっと意外だった。
 せっかく五島のオヤジが20年もかけてパニックの種を蒔いておいてくれたのに、それに乗じないとは、まったくの話、政治的センスが欠けているのだろう。
 ダミーの弾頭でもくっつけてテポドンを飛ばして寄越すなり、ハングル文字入りのタイマー駆動ギミックをぶら下げた風船を100個かそこいら季節風に乗せるなりすれば、日本は大騒ぎになったはずだ。
 そうすれば裸の王様から恐怖の大王に出世できたじゃないか。
「キムちゃんのドーンとやってみよう(マルシーby植木不等式)ってか?」
 おお、これはキム将軍。心配してたんですよ。このたびのあなたらしくもない弱腰は、どういうことなんですか?
「うーん。大工の源さんがちょっとね」
 む? 源さん? 誰ですか、そりゃ?
「うん、知らないんならいいのことよ」
 工作員ですか?
「まあ、そんなようなものネ」
 その工作員が公安につかまったとか?
「いや、どうも公安筋から、出玉率調整の圧力がかかったみたいで……」
 出玉? なんですか? 核弾頭ですか?
「ホント知らないアルか?」
 あっ、もしかしたら新宮殿造営のために日本の優秀な大工を大量に拉致するとか、そういう話ですか?
「いくらなんでも、アタシだってそんな時代劇みたいなことしないよ」
 っていうと、何です?
「パチンコよパチンコ。ウチの経済の柱ね」
 パチンコが、ですか?
「うん。パチンコと偽ドルとシャブと、それから武器の密輸と人身売買ね」
 ……なんか、おタクの国って、ヤー公の事務所みたいですね。
「うん。ヨロコビ組ね」
 だったら、日本の公安なんか恐れることないじゃないですか。
「ナニ言てるのアンタ? ニッポンのオマワリさん、イチバンの友達よ」
 ……
 あっ、事実無根です。
 気にしないでください。
 ただ、北の立場で戦略を考えれば、軍備なんかに力いれるより、パチンコとかを通じて日本の警察と癒着した方が得策かなあって思っただけです。
 パチンコ屋さんも、おまわりさんも、完全にアンタッチャブルだしね。


8月2日 月曜日 晴れ
 ヒラリー・クリントンが雑誌のインタビューに答えて奇妙なことを言っている。
 
【ロンドン1日=芝田裕一】一日付の英紙サンデー・タイムズによると、ヒラリー米大統領夫人=似顔(上)=は、近く創刊される米雑誌「トーク」との会見で、クリントン米大統領=同(下)=の浮気癖は幼少期のつらい家庭体験が原因だと考えていることを明らかにした。
 大統領が四歳になったばかりのころ、母親と祖母の間に深刻な対立が生じた。夫人は「少年時代に二人の女性のいさかいに挟まれると、双方の女性のご機嫌とりに走るようになると、心理学者から聞いたことがある」と述べ、大統領の浮気癖の原因を分析してみせた。(2日付け、読売新聞)
 アメリカ人というのは、つくづくこのテの俗流心理学が好きな人たちだ。
 心理学と言っても、あの連中の口から出てくる話は、レベルとしては日本のおばちゃんたちが九星だの血液型だのをネタに井戸端会議をしているのとあんまり変わらない。
申年の虎馬抱いて丑寅に
 って、意味わかんないか?
 ま、フロイトの頭も信心からってことです。
 
TBSでまたしても不祥事
 例の痴漢局長がつかまった前日に、三十代半ばの社員がJRの車両内で痴漢行為をはたらいて四谷署に突き出されていたらしい。
 TBSの広報によれば、公表が1ヶ月近く遅れたのは、「局長という立場にある者と比べて、同じように厳しい社会的制裁を受けさせるのはいかがなものか」と考えたからだという。
 当の社員さんは、一週間出社停止の社内処分期間を終えて、現在は出社している。

 とはいえ、この先のことを考えると、彼の身も無事には済まないだろう。
 またぞろどこかの写真週刊誌が顔写真を載せるかもしれないし、でなくても、狭い業界の中では、すでに名前から何からすっかり知られているに違いない。

 不可思議なのは、エリートさんがこの種の事件を起こすと、必ずと言っていいほど「ストレスがたまっていたのでしょうか」式の憶測コメントが出てくることだ。
 何を言ってるんだ。
 痴漢は痴漢。
 ストレスもへったくれもない。
 他人のケツを触るのに欲望意外の動機があってたまるか。
 地位の高い人間が逸脱行動を起こすと、ストレスだとかトラウマだとかいった高級くさい要因を想像したがる人々がいる。
 救いがたいエリート信仰と言わねばならない。
 連中は欲望にさえ階級があると考えている。
 高学歴の人間であれ、富裕階級出身の人間であれ、俗悪な人間は俗悪だって、それだけの話じゃないか。

8月3日 火曜日 晴れ
 中国が東風31ミサイルの発射実験に成功。
 はて? 東風といえば、東からの風だが、ってことは、中国にとってみれば、台湾や日本の方向から吹いてくる風ってことにならないか?
 逆風を突いて飛ぶミサイルなのか?
 それとも、「東風」の意味するところは、麻雀で言う「親」ということか?
「起家(チーチャ)は、アタシのところアルヨ」
 うむ。
 中華思想。

 「31」はなんだ?
 カケフの背番号だということぐらいしか思いつかないが、ってことは、台湾出身の王貞治氏に対するあてつけか?
 いや、どうでもいいんですけど。
 すんません。


 マグワイヤとソーサのホームランダービーが白熱
 興味無いな。
 っていうか、単に不愉快だよ。セントルイスのビール腹のベースボールオヤジじゃないんだからさ、オレは。
 今日の夜のニュースでは、NHKも含めた地上波全局がこの話題を映像つきで取り上げていた。
 まだ、シーズンは3ヶ月も続くんだぞ。
 いいかげんにしたらどうだ。
 この調子で、10月まで毎日経過報告を続けるつもりなのか。
 キミたちは、アメリカの放送局の日本支局員なのか。
 こんな在日米人向けのヒマネタは深夜枠の情報番組でオッパイ半出しのねえちゃんにでも読ませておけばいいじゃないか。
 いや、本来ならFENのイブニングニュースネタに過ぎない。
 それでアメちゃんたちが不満だというのなら、東京ローズを起用したっていい。
 ん? 東京ローズを知らない?
 いや、知らないんなら聞き流してください。
 東京ローズがダメなら、マタハリでも李香蘭でも西施で何でも良いんだから。いや、いっそサッチーだってかまわない。
 どうせ基地外のたわごとというのか、オキュパイド・ジャパンのヤンキー向け安徳利商売なんだから。

 冗談はともかく、メジャーのホームラン争いが、朝鮮半島の水害より大きく扱われているのは、デスク連中のアタマが暑さで煮えているからだと思う。
 誰がどう考えたって、東アジア大水害の方がずっとニュースバリューは高いはずだ。
 なにしろ、コメの出来不出来で政策から何からがすっかり変わっちゃう国なんだから。

   8月4日 水曜日 晴れ
 G誌が届く。
 表4がヒロスエのさくら銀行&NTTDokomoのタイアップ広告になっている。
 Web版にはヒロスエ翼賛記事(「ヒロスエ人気はネットでも大復活?!」だと)がアップされている。
 なるほど。
 私の企画(ネット世論の行方・東芝および広末問題に寄せて)が通らなかったのもむべなるかな、だ。
 ほとんど生まれてはじめて自分から持ちこんだ企画だったのだが、結局水子になってしまった。
 合掌。
 私の一人相撲だったようだ。
 関係者に要らぬ迷惑をかけてしまった。
 合掌平伏 叩頭屠腹 懺悔改悛 流涕嗚咽 臥薪嘗胆 冒頓単于、だ。
 マスコミは通信傍受法案や教科書検定のような問題が話題にのぼると、「表現の自由と知る権利を守るためには一命を賭す」といった感じでリキんでみせる。
 が、そんな抵抗は実はポーズに過ぎない。
 だって、実際問題として、彼らの表現の自由は、お国が乗り出すまでもなく、スポンサーや文壇人脈圧力みたいな私的な権力の介入によってとっくの昔に失われているんだし、知る権利にしたって、どうせジャニーズ事務所に対しては無力なんだから。
 国家権力に対する血で血を洗う闘い。
 警察権力の圧力をはねかえす堅忍不抜の抵抗。
 そんな壮大なことを考えなくてもいいんですよ。
 上司だとか、営業担当重役であるとか、スポンサーやクライアントといった人たちに、
「お言葉ですが」
 と、ちょっとだけ言ってみてくれればいいんです。
 無理かなあ。

 まあ、仕方がない。
 根性据えて、ほかの仕事に励もう。
 尻尾をくるくる巻いて、深呼吸をしよう。
 母さん、違うよ。
 ぼくはため息なんかついていない。
 ただ、脳細胞が少し死んだだけださ。

●午後4時に歯医者
「歯肉炎ですね。まだ膿が出てます」
「ふぁい」
土用凪 我は膿の子 敗者の子
「また治療途中で逃げると今度は骨膜炎になりますよ」
「ふぁい」
「いまのうちにきちんと治療しておかないと、年をとってから後悔することになりますからね」
「ふぁい」
 ふん。
治療していれば(入れ歯) はなし(歯無し)にならざらむ
 ってか。

●耳垢の一局
 耳垢を指摘される。
 ぎっしり詰まっているという。
「気持ち悪くないの?」
 別に気持ち悪いことはない。
 ただ、耳垢を取るのがイヤなだけだ。
 子供の頃、外耳炎を何回かやったせいなのか、耳の穴に異物を入れることにどうしても抵抗があるのだ。

 もし私が女だったら、きっと一生処女だったと思う。
 だって、耳に綿棒を入れるのさえコワいのに、ましてあんなところにあんなものを……
 
 ともかく、他人に耳をいじられるのは絶対にイヤなので 自分で、綿棒を入れてみた……ら、ひどいことになった。耳垢を奥に詰め込んでしまったらしく、左耳がゴーンという感じで遠くなっている。
 で、プールに行った。
 おろかな選択だった。  水で耳垢がふやければなんとかなると思ったのだが、これが完全に裏目だった。
 両耳とも完全な難聴状態。
 テレビの音は、普段の音量ではほぼまるで聴きとれない。
 ああ。

●ロナウド
 「ニュース23」にロナウドが出てきた。
 ひどいインタビューだった。
 世界一のサッカー選手をつかまえて、バカな質問(「日本のサッカーはABCで言うと?」だとか)のオンパレード。
 事前取材もデタラメ。
草野「絵をお描きになるそうですが」
ロナ「……は? 描きませんが……」
草野「でも、確かに絵が趣味だという話を聞いたんですが」
ロナ「……何かの間違いでは……」
 だって。
 おまけに、言うに事欠いて
「フェイントをやってください」
 だ。世界一のサッカー選手をつかまえて。しかもスタジオで。
 当然のことながら、フェイントは一人でできることではない。
ロナウド:「相手がいないと……」
進藤:「じゃあ、あたしが……」(棒立ち)
 困ったロナウドは、それでもシザーフェイントを見せた。
 が、スタジオのド素人4人(筑紫、進藤、草野&素人通訳)は、「えっ?それだけですか?」という反応。
 ばか。
 フェイントってのはそういうもんだろうが。

 結局、サッカーというものに対する敬意が無いんだな。だから、「ひとつ見本を見せろよ」だなんていう、太鼓持ちを金で買った旦那みたいな物言いができるんだ。
 仮に来日していたのが、オペラのプラシド・ドミンゴだとかだったら、筑紫さんは、こういう扱いをしただろうか。
「日本のオペラはABCで言うとどうです?」
「……んー、ちょっとワカリマセン」
「北島三郎を知ってますか?」
「……んー……誰でしょうか」
「一節うなってみてくださいよ。ほら、アイーダとか言いましたっけ? そいつのサワリんとこをちょっと」
「……んー、しかしオペラは、相手役なしでは……」
「じゃあ、あたしがここに立ちますから」
「……じ、じゃあ ♪アーオオアアア♪……」
「……えっ、それだけ?」
「……」
 こういう失礼なことをして良いんだろうか。
チクシ「一筆お願いしますよ」
ピカソ「えっ? だって、キャンバスもないし……」
チクシ「ほら、取材手帳とボールペン貸してやるからさぁ」
ピカソ「……うーん、しょうがないなあ。サラサラ」
チクシ「えっ、こんだけ? これが絵なわけ?」

 ぜひ、反省してほしい。
 インタビュアーには、せめて取材対象の偉大さを理解している人間を起用してほしい。
 筑紫さんから見ればロナウドは、単なる「気のいい兄ちゃん」ぐらいにしか見えなかったかもしれない。
 が、そりゃあんたの勉強不足であって、ロナウドの側の責任じゃないよ。
 それから、進藤さんも草野さんもカネの話ばっかり聞かないこと。
 第一、下品だよ。世界一のアスリートをつかまえて。

 あーあ、不愉快。
 耳も聞こえないし。
 寝よう。


8月5日 木曜日 晴れ時々曇り
 耳がきこえない。
 一晩寝れば治っているかもしれないと思ったオレは甘かった。
 
 午前10時、耳鼻科で駆けこんむ。
 1時間ほど待たされた後、診察室に入る。
 現れたのは、推定45歳、153cm×90kgの女医、水戸泉似。
 不安がよぎる。
 不器用そうな太い指、細い目、荒い息。
 大丈夫だろうか。怒っているのだろうか。健康なのだろうか。短気じゃないんだろうか。そもそも自己抑制が苦手だからこんなに太ってるって、そういうことではないんだろうか。 
「あ、完全に詰まってます」
「はあ」
「それに、外耳炎になってますね」ぐりぐりぐりぐり(先端に脱脂綿のついた器具を挿入)
「……アッ、痛!(涙目)」
「そういうふうに動かれるとアブないんですよ(腰に手)」
「はい、なるべく我慢します」
「じゃあ、取りますよ」ぎゅいいいいいん(吸引式の器具を耳に挿入)
「ぐあぁ、痛たたた!(裏声)」
「……」
「すいません」
「ダメですね。そう痛がるようじゃ」
「はい(幼児退行)」
「男の人には、案外大げさな人が多いから」
「……」
「耳垢を溶かす薬を出しておきますので、また明日来てください」
「……はい(仔犬化)」
 大丈夫だろうか。
 私は立ち直れるだろうか。

 ところで、宮台君に謝っておこう。
 8/1の日記でケチをつけているが、私は彼の著作は読んだことがない。ただ、「朝ナマ」とかの印象でものを言っただけだった。  八つ当たりだった。
 済まない。
 でも、「終わり無き日常」という言葉は、やっぱり嫌いだな。
 「まったり」っていうのも。
 形容詞としてなんだかまったりし過ぎてるし。


  8月6日 晴れ一時雨
 朝一番に耳鼻科。
 昨日行った医者とは別のところに行った。
 初診料がもったいないとちょっと思ったが、やっぱり水戸泉女医はちょっとコワ過ぎる。
 今日の医者は、三十代前半と思しき好青年。不潔でもなかったし、威張ってもいない良い医者だった。

 外見だけで人を判断するのはいかがなものかとは思うのだが、どうしても医者にだけはこちらサイドの勝手な理想像を求めてしまう。
 まあ、ある意味、命を預けるわけだから多少のわがままは言わせてもらいたいわけだ。

 元来、私は、人の外見にはいたって寛大なたちだ。
 基本的には、きちんと仕事をこなすのであれば、誰がどんな格好をしていてもかまわないと思っている。
 アロハの銀行員がいたって良いし、寿司屋の板前がドレッドロックだってかまわない。おまわりさんが短パンで交通整理をするのも素敵だと思うし、裁判官がTシャツで判決を下しても良いとさえ考えている。
 が、医者だけは別だ。
 医者には、きちんとしていてほしい。
 度はずれたデブであったり、顔面神経痛持ちであったりしてほしくはない。
 前に住んでいたところで一度だけかかった歯医者は、茶髪だった。
 茶髪とは言っても、栗色程度なのだが、それでも私はイヤだった。医者には黒髪であってほしいのだ。
 その、齢三十路に満たない若い歯医者は、奥歯の詰め物を誤って落とした時、
「あ、ヤベ」
 と言った。
 この一言で私は完全に彼を見限った。
 ヤンキーに歯を削らせるわけにはいかないからね。

 参考までに、期待される医師像の外見的条件を列挙しておこう。アタマもモラルも大事だが、医師たるもの、なにより見た目を大切にしてほしい。
・年齢は三十代から四十代。小僧と年寄りは勘弁。
・ヒゲの剃り残しがあるような野郎はダメ。
・爪が伸びすぎていたりするのも困る。爪垢が黒かったりするヤツは問題外。
・髪は長からず短からず。スキンヘッドの歯医者とか、ロンゲの外科医とかはパス。
・あんまりブ厚い眼鏡をかけているのもちょっと困る。
・白衣にアップリケとかはやめてほしい。
・入れ墨厳禁。
・口臭は困る。タバコくさいのも減点。酒くさいのは論外。
・おどおどしたヤツもいけない。問診の時目玉が泳いでたりすると、こっちが焦る。
 とまあ、こんなところだろうか。
 さらにぜいたくを言うなら、
・性別はなるべくなら男。できれば風間トオル似(って、モーホか? オレは)
・女医さんの場合、きれいであるに越したことはないが、あんまり色っぽかったりすると不安。厚化粧、キャミソール(いないか)、ノーブラはバツ。
・体格が良すぎるのはちょっと……。カズシゲはマッチョすぎる。
 午前10時半、やっとのことで耳が開通。音が帰ってきた。うれしい。

「ちょっと、キミね」
 あ、ドクター。何ですか?
「キミたちが理想の医者とか言うんならさ、こっちにもあるわけだよ、理想の患者ってのが」
 はあ。
「ま、商売だから診るには診るけどね。イヤなクランケだっているんだぜ」
 というと?
「治らないヤツとか、やたら痛がるガキとか、表情から声からがとにかく暗くて、見てるだけで気が滅入ってくるじいさんとかさ」
 だって、病人なんだからしょうがないでしょうが。痛いし苦しいし、気持ちだって沈むんだから。
「でもヤなのよ。そういうのは」
 じゃあ、アレですか? 陽気で前向きで、気丈夫な患者が良いんですか?
「誰だってそうじゃないか? 落ち込んじゃってため息ばっかりついてるようなおばさんの相手とかは、やっぱりヤだろ?」
 そりゃそうだけど、とすると、理想の患者は、健康体ってことになりますよ。
「いや、そこまでは望んでないよ。あんただって文盲の読者がほしいとは思わんだろ?」
 ええ、まあ。
「だからさ、病人なりに明るい展望を持ってて、症状だとか治療に神経質じゃなくて、料金には無頓着でさ。でもって、治療効果のあがりやすい、しかも保険点数の稼げる検査オリエンテッドな病気をかかえてくれてると最高なわけだよ」
 うーん。つまり、ドク、こういうことですね。医者が望む理想の患者は、医療ファンというのか、受診マニアというのか、放っておけば自然治癒する程度の軽度の症状を呈しているありがちな疾患の持ち主で、カネと時間に余裕があるもんだからわざわざ検査を受けにくるみたいな人たちなわけですね。
「うん。ほら、予防医学って言うだろ? あれが理想だな」

 午前11時、打ち合わせ。
 昼過ぎ。イギー氏のために小松菜を買って帰る途中、赤羽中央街が撮影(カラオケのビデオという噂)で通行止めになっていた。
 昭和20年代のパンパンとしか思えない服装の女優さん(←知らない顔)が、雨(脚立の上からホースで水を蒔いていた)の中を走る場面。
 それにしても、映画(かどうかはわからないが)のスタッフ連中というのは、どうしてあんなにも汚いのだろうか。
・首と裾が完全に伸びきったTシャツ。
・匂いそうなジーンズ。
・アタマには薄汚れた手ぬぐい。
・靴流通センターで1500円で売ってそうな雑巾スニーカーを、底を踏んで履く。
 あえてそうしているとしか思えない汚らしさだ。
 もしかしたら、映像制作の現場には、出演陣の麗々しさを引き立てるために、裏方は思いきり薄汚い格好をするという不文律でもあるのかもしれない。
 いずれにしろ、あの裏方陣の汚さをなんとかしない限り、日本映画に明日はないと思う。
"No ass for Japanese Movie?"
 おお、これはルーカス先生。だから、そのアスじゃなくって……
"You mean Us?"
 いや、あんたたちハリウッド人種のことじゃないです。あんたらに無いのはむしろ昨日ですから。
"You mean the United States?"
 確かに合衆国にも明日はないかもしれませんが、ケツのアナぐらいはあるでしょう。こんだけ後から後からクソが出てくるわけだから。
"Kiss your ass!"
 わかってますよ。「期するところ明日にあり」ってな調子で問題を先送りにしているのが我々の問題点だって言うんでしょ? わかってますってば。


ball20.gifFマリノスVSジュビロ
 TBSでテレビ観戦。アナウンサーの清水大ちゃんは健闘するも、相変わらずCM入れまくり。
・ジュビロはおかしい。パスはそこそこつながるのだが、最終ラインがどうしても抜けない。細かいパスをちょこまか交換するばかりで、展開を変えるミドルレンジやロングレンジのパスが無い。去年のヴェルディみたいだ。やはりパスサッカーというのは、歯車がひとつ狂うと蹴鞠になってしまう。
・対照的にマリノスは、ボール支配率こそ低いものの、アーリークロスやセットプレーの精度が高く、空中戦での競り合いに強い。レッズにとっても実にイヤなサッカーだ。5点、いや、うかうかすると6点ぐらいとられそうだ。
・中村俊輔、三浦アツという左右のフリーキッカーは脅威。こいつらはドリブルもあるからなあ。ザッペッラが振り切られるのが目に見えるようだ。で、足をひっかけてフリーキック。ドッカーン。
・マリノスは、もしかしたら、このまま突っ走るかもしれない。城とユ・サンチョル次第か。
・今日の城はやけに良かった。カラダも一回り大きくなって、コロコロ転ばなくなった。全盛期のカズが乗り移った(要らぬマタギのフェイントを随所に見せてたりして)みたいなドリブルもなかなか。ピンポイントのクロスに合わせたヘディングで1点。そのすぐ後に右サイドに飛び出して右足インサイドでうまく決めた。ヘイ!ジョー、去年のジョーはどこへ行ったんだ? おまえの明日はどっちなんだ?
・高原はまだ体調が戻っていないのようだ。好調時にはアフリカンなテイストを醸すあのヘアスタイルも、なんだか捕虜の二等兵じみて見える。
・マリノスでは、井原が出場停止で出ていなかったが、ディフェンスは崩れていなかった。ってことは、イハラは用済みか?
・それにしても、マリノスのディフェンスはカラダごとぶつかってくる。フクダが転がされるのが目に見えるようだ。フリーキックを貰っても、おい、誰が蹴るんだ?

 午後11時。
 テレビ埼玉「GOGOレッズ」を観る。
 小野伸二選手の、木曜日の記者会見の様子が紹介されていた。
 ちょっと太ったようだ。
 まあいいだろう。
 この半年ほどの、頬がコケてやつれた感じの顔よりはずっと良い。


8月7日 土曜日 晴れ時々曇り
 昨晩、寝入りばなに、素晴らしいアイディアを思いついたのだが、今朝、起きてみるとどうしても思い出せない。
 気になる。
 が、おそらくは、くだらない思いつきだったのだ。
 あきらめることにしよう。
 わかっている。
 一時期、寝る前にアイディアがひらめくことが多いので、枕元にメモを置いていたことがある。
 しかしながら、寝ぼけまなこで書きとめた走り書きは、どれもこれもまったく使いものにならなかった。
 そういうものなのだ。
 結局、就寝直前の着想が素晴らしく思えるのは、着想そのものが秀逸だからではなく、その着想を評価する批評眼が腐っているからなのだ。
 つまり、批評眼から先に眠りにはいるわけですね、わたくしたちは。
 人間って、悲しいですね。


 午前9時、耳鼻科に直行。
歯医「あー、外耳炎が悪化してますね」
オダ「外耳炎になりやすい体質なんで、耳垢を取るのがイヤで……」
歯医「逆ですよ。耳垢を取らないから耳の中がバイ菌だらけになって、ちょっとしたことで外耳炎になるんです」
オダ「……」
歯医「炎症の腫れで外耳道がふさがりかかってますよ」
 了解、ドク。この治療が終わったら、定期的に耳垢を取るようにします。
 机の前のカレンダーに耳垢掘削日を赤丸で書きこんで、着実に実行いたします。
 そして、耳の穴から向こう側が見えるぐらいに、いつもきれいにしておきます。
 ん? 脳味噌があるから向こう側は見えないって?
 いや、それがそうでもないんだよ、兄弟
 オレの耳垢は、脳細胞の死骸なんだ。

■花火■
 夕刻、声優T氏の一家とともに戸田市の花火大会に出かける。
 ものすごい人出。戸田側の河川敷だけでざっと見て数万人はいたと思う。
 見物客の大半は20代と思しき男女だった。
 なんだか意気阻喪してしまった。
 数万人の若い男女の、それぞれに切実でありながら、全体としては陳腐きわまりない劣情が……
 ……こういう言い方はよそう。
 若人の情熱であれ、オヤジの情熱であれ、情熱というのは、傍目には浅ましくしか見えないものなんだから。
 結局、私が人ごみに慣れていないということなのだ。
 ああいう場所にしばらくいると、群集の圧力に参ってしまうのだ。
 大阪では、人ごみのことを「鬼のゲロ」と言うのだそうだが(田辺聖子さんの本に確かそんなことが書いてあった)、なるほど、荒川の河川敷は、食人鬼のゲロみたいにぐちゃぐちゃの人間だらけだった。
 花火を見上げながら、テボドンでも落ちてこないかなあ、と、ふと思った。
「キムや〜」
 か? いや、いくぶんかは深刻な複雑な波紋が広がるだろう。
◆「夏本番、板橋戸田花火大会に北朝鮮が飛び入り参加」(朝日新聞、社会面)

◆「花火が一種のミサイルであり、また人工衛星がある意味では花火でもあればミサイルでもあるという現代に特有な難しい問題が、今回の事件の背景にあるということを、我々は忘れてはいけないと思います」(筑紫哲也、「多事争論」)

◆「不必要に大規模な花火をしかも事前通告無しに打ち上げるのはいかがなものか」(オブチ首相、国会予算委)

◆「日本軍国主義者の悪辣な自作自演による陰謀」(北朝鮮外交筋、非公式コメント)

◆「空見たことか」(五島勉、産経新聞へのコメント)


 明るい空想をしよう。
 たとえば、ピョンヤン上空で、夢のように美しい花火ミサイルを炸裂させるというのはどうだろう。
「おお、何だあれは?」
 と北の人民は口をあんぐりと開けて見上げるだろう。
 そして、彼らは悟るのだ。
 隣国の資本主義のまばゆいばかりの繁栄の諸相と、自らの耐乏生活の空しさを。
 そうなればもうこっちのものだ。
 ひとたび資本主義花火のきらびやかさを見てしまった人民は、二度と暗い穴居生活には戻れなくなる。
 どうだ?
 丸玉屋と三菱重工の共同開発で、やってみる価値があるんじゃないか?


 花火会場には、浴衣姿が思いのほか多かった。
 浴衣か、ペディキュアか、どちらかをやめてほしいと思った。
 どうせ、和服を着こなせるような生活をしているわけじゃないんだから、変な気まぐれをおこして浴衣なんか着ないほうが良い。
 浴衣を着るなら着るで、色々なこと(若さ、自由さ、涼しさ)をあきらめるべきだ。
 浴衣であれ振袖であれ、和服というのは、小股で歩かねばならないようにできている。
 しかも、和装のエレガンスは、速足にはない。
 ってことは、和服を着たが最後、彼女は、小股で、しかもゆっくり歩かねばならないわけで、こりゃババアである。
 といって、若い人たちが若い者らしく闊達に歩けば、和服の着こなしとしては、著しくだらしないってことになる。
 
 念のために申し上げるが、私は、和服を着こなせない娘さんたちを責めているのではない。
 罪は似合わないお嬢さんたちにはない。
 悪いのは和服の方だ。
 あれは、纏足やコルセットと同じく、中世に属するものだ。つまり、纏足であれ和服であれ(あとハイヒールもね)、行動の自由を制限するタイプのファッションは、女性が性的な玩具でしかなかった時代の残滓なのだ。
 っていうか、一種のボンデージファッションだな。
 「楚々とした」みたいなタイプのエレガンスは、結局、女性の不自由さそのものを指している。
 ん?
 フェミニズムみたいだって?
 誤解しないでくれ。
 オレは、不自由な服装が嫌いだと言っているだけだ。
 ネクタイも背広も軍服も、同じようにオレは嫌いだよ。
 橋本治という人が「半ズボン革命なんとか」(書名失念)という本を書いていて、昔読んだことがあるのだが、その中で彼が言っていたのは、おおよそ次のようなことだった(と思う)。
・熱帯モンスーンと変わらぬクソ蒸し暑い夏を持っているわれら日本人が、明治からこっち、西洋人のマネをして背広を着ているのは、この国の大人が国際的にまるで自立していないからだ。
・「私は暑いのを我慢して背広を着ています」ということが大人であることのあかしとして機能してしまう、この日本という国のやせ我慢の文化は、江戸時代からまるで変わっていない。
・世間は、周囲に同一化せずに、一人だけ半ズボンをはいて楽をしている人間を軽蔑する。なぜかと言えば、そこでは、はなはだ逆説的なことに、突出しない能力こそが優秀さとみなされているからだ。
・半ズボンで世間に通用する人間だけが本物だ。
 以上の見解に関して、私は橋本治を全面的に支持する。
 てなわけで、京都VS浦和のセカンドステージ開幕戦は、ビデオ録画したものの、まだ観ていない。
 負けたらしいので、ビデオは観ないかもしれない。
 オレが敗因分析なんかしても、別にレッズが強くなるわけじゃないし。
 それになにより、応援しながら録画ビデオを観たからって、負けが勝ちに変わるわけでもないんだからさ。
 寝るよ。